ペダルは「音をつなぐ道具」ではない。音が濁る原因を根本から解決する、手と足の「脳トレ」

「なんだか、音が濁ってしまうんです」
「ペダルを踏み替えるタイミングが、どうしてもワンテンポ遅れてしまう気がして……」

ピアノを再開された大人の方や、初級から一歩抜け出したいという生徒さんから、一番多くいただく相談がこの「ペダル」についてです。

楽譜に書かれた「Ped.」の文字。それを合図に右足を踏み込み、次の小節でパッと離してまた踏む。文字にすれば簡単そうに見えますが、いざ実践してみると、音がブツ切れになったり、逆に前の音が残ってワンワンと響きすぎてしまったり。

実は、ペダルの技術を磨くことは、足の動かし方を覚えることではありません。それは、自分の「耳」を研ぎ澄ませ、脳と指と足を連動させる、極めて論理的な「脳トレ」なのです。

今回は、私がレッスンで大切にしている「音が濁るメカニズム」の正体と、音に圧倒的な「厚み」をもたらすための本質的な身体操作についてお話しします。

音が濁る本当の理由は「足」ではなく「かかと」にある

まず、具体的な踏み替えのお話をする前に、あなたの足元を確認させてください。ペダルを踏むとき、かかとが床から浮いてしまっていませんか?

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かかとを浮かせて「足全体」でペダルを押し込もうとすると、繊細なコントロールは不可能です。足首の関節がロックされ、ガタンという雑音や音の濁りの原因になります。

かかとの位置を床にしっかりと固定すること。これが全ての土台です。

かかとを支点にして、足首を柔らかく使う。そうすることで初めて、ペダルの重みを感じ、ミリ単位のコントロールが可能になります。ペダルを戻すときは、ただ足を離すのではなく、ペダルの跳ね返りを足の裏で優しく受け止めながら、吸い付くように戻していく。

「優しく踏んで、優しく離す」

言葉にするとシンプルですが、これを実現するためには、動かさない「かかと」と、柔軟に動く「足首」の分離が不可欠なのです。

「弾く→踏む」の順序を脳に叩き込む徹底的な脳トレ

次に、多くの方が悩む「踏み替えのタイミング」についてです。

よく「音が濁る」という方は、鍵盤を弾くのと「同時」にペダルを踏んでしまっています。あるいは、前の音が消える前に踏んでしまっている。これを解決するには、論理的な順序を脳に理解させる必要があります。

基本は「弾く→(一瞬遅れて)踏む」です。なぜ同時ではいけないのか。それは、同時だと「前の響き」が残っている状態でダンパー(弦を押さえているフェルト)を上げてしまうため、古い音と新しい音が混ざり合って濁ってしまうからです。

これを矯正するために、あえて極端にゆっくり行い、脳と足の連動を一つずつ繋ぎ合わせていく練習を行いましょう。

  1. 鍵盤を弾く
  2. 音が出るのを確認する
  3. ペダルを踏み替える(一瞬離して、すぐ踏む)
  4. 次の音を弾く

これはまさに「脳トレ」です。特別な練習曲を準備する必要はありません。あなたが今向き合っているその曲で、一音一音の響きを耳で確認しながら、脳の指令を足に伝えていく。その積み重ねだけが、濁りのない美しい響きを作ります。

ペダルに頼った演奏は「音が薄い」という、知っておきたい大切な事実

さて、ここからが一番大切な、本質的なお話です。インタビューでもお伝えしたことですが、私は常々こう考えています。

ダンパーペダルは、音をつなげるための道具ではない

ハッとされる方も多いかもしれません。多くの教則本には「音をつなげるためにペダルを使う」と書かれています。しかし、そこに依存してしまうと、演奏は途端に「薄く」なってしまうのです。

音が「厚い」演奏

手だけで音を繋げる(指レガート)ことができており、ペダルは響きを豊かにするための補助として機能している。

音が「薄い」演奏

ペダルに頼って指を早く離してしまい、ペダルを切った瞬間に音がプツッと切れてしまう状態。

「手でつなぐのが大前提」

この意識があるかないかで、演奏のクオリティは劇的に変わります。ペダルを離しても、メロディが死なない。指が次の鍵盤に吸い付くように移動し、音のバトンを渡していく。その指の動きがあるからこそ、ペダルが「響きの魔法」として機能するのです。

TIP

自分の演奏がスカスカしていると感じるなら、一度ペダルを封印して、手だけでどこまでレガートに弾けるか試してみてください。その努力が、ペダルを踏んだ時の感動的な「厚み」に直結します。

音色を操る「ソフトペダル」のグラデーション

最後に、左側のペダル「ソフトペダル(ウナ・コルダ / una corda)」についても触れておきましょう。

このペダルは、単に「音を小さくする」ためのものではありません。音色を柔らかく、幻想的に変化させるためのものです。ここでも、足首の使い方が重要になります。

ソフトペダルを踏んだ状態から、元の音色に戻す「tre corde(トレ・コルデ)」の指示。ここでパッと足を離してはいけません。それでは音色の変化が唐突すぎて、聴き手に違和感を与えてしまいます。

まるで霧が少しずつ晴れていくように、あるいは色がゆっくりと鮮やかになっていくように。足裏でペダルの戻り加減をコントロールし、音色のグラデーションを作るのです。その繊細な操作が、あなたの演奏にプロのような表情の豊かさをもたらします。

終わりに:耳こそが最高の指導者

ペダルの技術は、一朝一夕で身につくものではありません。しかし、今回お話しした「かかとの固定」「脳トレとしての踏み替え」「手でつなぐ大前提」というポイントを意識するだけで、あなたの出す音は必ず変わり始めます。

一番の先生は、あなた自身の「耳」です。自分の出した音が、今、濁っていないか。ペダルを離した時、音の厚みが消えていないか。その音は、あなたが理想とする色をしているか。

足元ばかりを見るのではなく、ピアノから放たれる響きを全身で聴いてください。耳が「心地よい」と感じるタイミングを探り当てたとき、ペダルはもはや「難しい操作」ではなく、あなたの感情を増幅させてくれる心強いパートナーになってくれるはずです。

POINT

ペダル上達の鍵は、かかとを固定した繊細な足首の操作と、「弾いてから踏む」という脳の切り替え、そして何より「手で音をつなぐ」という基本に立ち返ることにあります。

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ピアノを中畠由美子、中島昌子、北川正、矢野裕子、楊麗貞の各氏に師事し、ソルフェージュを鈴木しのぶ、上田真樹の各氏に師事。
桐朋学園大学音楽学部ピアノ専攻卒業後、子供から大人まで幅広く指導を行うピアニスト

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